てしまった。
 父の作阿弥に会うことができれば……。
「それさえできれば、なんのおそれることもないのだけれど――」
 口をついて出るお蓮様のひとり言を、折りから檐《のき》を暴風雨《あらし》の轟音《ごうおん》が、さらうように吹き消す。
 お梶は死人のように、着物で顔をおおって、からだを丸くして畳に倒れたままだ。
 作阿弥に会いさえすれば――だが、自分をとりまく多勢の下役人たちは、上役から、狂人だからそのつもりでと言いわたされているので、なんと頼んでもむだなことは、このあいだからの努力で、わかっている。
 かりに、今夜のこの闇と雨風に乗じて、この家をのがれ出るにしても。
 このまわりがあれほど厳重にかためてあることは、誰よりもお蓮様が、いちばんよく知っている。
 それに。
 日光造営中、山を取りまく四十里のあいだにいくつとなく関所が設けられて、文字どおり蟻《あり》のはい出るすきもないのだから、足弱の自分が子供を連れて、この山道をどうして脱け出すことができよう!
 お蓮様は、ギュッと、痛いほどお美夜ちゃんをだきかかえ、眼をすえ、唇をかみしめて……助かる方法もがなと、せわしい思いが頭の中をかけ
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