、小倉山の高原。
 で、この高原を一里あまりもたどって、赤薙《あかなぎ》の東ふもとに出れば、もうはやそこに、とうとうと地ひびきをうって聞こえてくるのは……。
 日光三大|瀑布《ばくふ》の一なる、霧降《きりふり》の滝です。
 高さ十三丈、幅五間、上下二段になっている。
 山上から飛ぶしぶきは、折り重なる岩石に砕けて煙のように散り、滝壺から、横の山道にのぞく立ち木のこずえにかけて。
 どうです!
 いま、すばらしい七色の虹《にじ》が、かかっている。
 その虹のはしに、小広い滝見台があって、そこから、草を分ける小みちが、だらだらくだりに滝とは反対の谷底へ、のびています。
 昼なお暗いという形容は、ここにきてまことに真。
 小みちを下りつくした谷あいの木かげに、先ごろから、木口のいろも白い一軒の造作小屋が建てられて。
 どんなものずきな人か、髪の白い、腰の曲がりかけた老人が、この山奥も淋しくないとみえ、たったひとりで住んでいる……作阿弥。
 人の背ほどもあろうかと思われる雑草や、灌木におおわれて、この作阿弥の仕事部屋は、滝見台からも人の眼に映らない。
 世を離れ、三昧《さんまい》の境地にはいっ
前へ 次へ
全430ページ中355ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング