《たるみ》の実家へ送り帰される途中――。
 交野《かたの》の辻《つじ》という野原があります。そこへさしかかると、鳴いて飛びたった一羽の雉子《きじ》が、あわれにもかりうどの矢に射おとされるのを見て、娘は父の悲しい思い出を連想し、駕籠《かご》の中から、
「物言はじ父は長柄の人柱、なかずば雉子も射たれざらまし」
 有名なおはなしでございます。
 さて、今この日光造営奉行所の奥の一間には――。

       五

「物言《ものい》はじ父は長柄の人柱――」
 この歌をよんで泣いた女の心をはじめて知った良人《おっと》は、そうであったか、あの父の死を悲しんで唖を通していたので、自分に情のないわけではなかったのかと、もとの鞘《さや》におさめて、あと仲よく暮らし、その交野の辻には雉子|塚《づか》を作り、三本の杉を植えて長く記念にしたという。
 そのほか、人柱の伝説は、諸国にたくさんつたわっております。
 そこで、今。
 山王《さんのう》わきの日光修営奉行所の奥の奥、壁の厚い一間に、三人の人影が黙然《もくねん》と腕をこまぬいている。
 壁の厚いのは、密談のもれ聞こえるのを防ぐためで、工事の進行程度、経費
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