もの》のねえやつは、かまわねえから、相手の咽喉《のど》ッ首へくらいついてやれ」
「オイ、八百屋《やおや》の初《はつ》さん、そんなおめえ、天秤棒《てんびんぼう》などかつぎだして、どうしようってんだ」
「なあにね、これで相手の脛《すね》をかっさらってやりまさあ」
「オーオー、糊《のり》屋の婆さん、戦場に婆さんは足手まといだ。おめえはまア、家に引っこんでいなせえよ」
「何を言ってるんだよ。うちの次男坊の根性を入れかえて、悪所《あくしょ》通いをやめさせてくだすったのは、どなただと思う。みんな泰軒先生じゃないか。その先生の一大事に、婆あだって引っこんでいられますか。これだって、石の一つぐらいほうれらアね。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》南無阿弥陀仏」
 とんがり長屋の一同、どっと一団になって押しだしました。
 下帯一つにむこう鉢巻のもの、尻切れ半纏《はんてん》に鳶口《とびぐち》をひっかつぐやら、あわてて十能を持ち出したものなど。
 思い思いの武器。
 文字どおりの百鬼夜行……。
「泰軒先生を助けろ!」
「チョビ安を救え!」
 深夜の町を、このわめき声が、はるか向島のほうへとスッ飛んでゆく。
 石金
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