。
「エ、コウ、石金め、乙《おつ》うきいたふうな口をたたくぜ。異存のある者はあるめえたア、なんでえ。誰ひとり異存があっておたまり小法師《こぼし》があるもんか、なあおい、みんな……棒っ切れでも、心張棒《しんばりぼう》でもかついでって、先生に刃向かうやつらをたたきのめしてしめぇ」
「そうだ、そうだ! 泰軒先生に助太刀するのに、文句のあるやつがあるもんか」
「石金も気をつけてものを言うがいい」
「オーイ、みんな! このままで押しだせッ」
ワッショイ、ワッショイ……まるでお神輿《みこし》をかつぐような騒ぎ。
「細野先生!」
と誰かが、この長屋のひとりで、尾羽《おは》打《う》ち枯らして傘をはっている南部浪人《なんぶろうにん》へ呼びかけて、
「こういうときア、痩せても枯れてもお侍だ。竹光《たけみつ》でもいいから一つ威勢よく引っこぬいて、先に立っておくんなせえ」
「言うにやおよぶ。泰軒氏のためとあらば、拙者水火もいとい申さぬ。ソレおのおの方ッ!」
なんかと、細野先生、継ぎはぎだらけの紋つきの尻をはしょって、一刀を前半にたばさみ、ドンドンかけだした。
「ソレ、先生におくれるな」
「なにも獲物《え
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