《となり》に住んで、おれ達の仲間だったチョビ安が、先生を迎えに来たのだ。なにやらただならぬ出来事らしいことは、チラと見た先生の顔つきで、おらア察したんだ。先生と安の話から、渋江村《しぶえむら》の司馬寮《しばりょう》の焼け跡というのを小耳にはさんだが、そこに何ごとかあって、先生はとんでいったものとみえる。おめえらも、トンガリ長屋と江戸にきこえた連中なら、よもや先生を見殺しにゃアしめえナ」
九
真夜中の住民大会。
塵埃箱《ごみばこ》の上に立ちあがった委員長石金さんの舌端《ぜったん》、まさに火を発して、
「おれたちがこうしていられるのも、泰軒先生のおかげだと思やあ、これから押しだしていって、先生に加勢をするのに、誰一人異存のある者はあるめえ」
ワーッとわいた群衆の叫びのなかに、奇声で有名なガラッ熊のたんか[#「たんか」に傍点]がひびいて、「ヤイ、石金のもうろく親爺《おやじ》め、オタンチンのげじげじ野郎め、わらじの裏みてえなつらアしやがって、きいたふうのことをぬかすねえ」
イヤどうも、こういう、字引にもない言葉を連発する段になると、ガラッ熊、得意の壇場《だんじょう》だ
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