明日《あした》を期し、四十何年の生涯の幕を閉じるつもり。
伊賀の源三郎に刃《は》のたたないことは、誰よりも峰丹波が、いちばんよく知っている。
「矢立と懐紙を……」
「源三郎からですか。なんと言ってまいりました」
「おのおの、何もきいてくださるな。朝になればわかることじゃ。紙を、筆を――」
と丹波は、おののく手をふって、誰にともなく命じた。
笹便《ささだよ》り
一
「どうした、戸のすきにはさんできたか」
と源三郎は、例のかみそりのような蒼白い顔に、引きつるような笑いを見せて、折りから庭づたいに帰ってきた谷大八を、見迎えた。
大八、袴のうしろをポンとたたいて、膝を折り、
「ハッ、うまくやってまいりました。何やら多勢で、ワイワイ論じておりましたが」
「ウフッ、今ごろは丹波のやつめ、さぞ青くなっておることであろう」
そう言って源三郎は、ゴロッと腹ばいになりました。
黄《き》びらの無紋《むもん》に、茶献上《ちゃけんじょう》の帯。切れの長い眼尻《めじり》に、燭台の灯がものすごく躍る。男でも女でも、美しい人は得なものです。どんな恰好《かっこう》をしても、そ
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