どうだ、お蓮! わしがお前に飲まされた煮え湯の味が、いま貴様にわかったか」
かさなる意外な出来ごとに、長屋の連中は潮が引くように、外の路地へしりぞいて、土間に静かに立っているのは、田丸主水正ただ一人。
ちょっとしんみりした空気のなかに、主水正の低声《こごえ》が、底強くひびいて、
「作阿弥殿、では、御出立《ごしゅったつ》を――」
「ただいま」
とふり向いて、お蓮様へ、
「貴様が、自分の栄耀《えいよう》に眼がくらんで、子をかまいつけなんだように、わしは、わし自身の芸術《たくみ》の心にのみしたがって、貴様のことなど、意にも介《かい》せんのじゃ。あとのことは、泰軒先生のお指図《さしず》を受けて、よしなにするがよい。コレ、チョビ安よ。お美夜坊の母親は、この人でなしだったのじゃよ。なんにしても、お美夜坊には母と名のつくものが一匹、現われたわけだが、こんどはチョビ安の両親じゃ。それにつけても田丸殿! この安の父母を、そこもとのお手でお探しくださるという条件で、わしは日光へまいりますのですぞ。かならずこの約定《やくじょう》を御失念なきよう……」
「あとをまかせられても、困るがナ」
泰軒は髯をし
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