とをしたか知らねえが、あんな仏みてえな人だ、ゆるしてやればいいのに」
 と、なかには何か勘《かん》ちがいして、作爺さんがお召捕《めしと》りにでもなったようなことを言うやつもある。ねいりばなをこの騒ぎにたたき起こされて、寝ぼけているんです。
「日光へ連れてゆかれるということだが、ときどきは長屋を思い出して、たよりをしてくだせえよ、ナア」
「ところが変わると、水あたりするというから、気をつけなさるがいいぜ、お爺さん」
 別離は、このトンガリ長屋でさえも、いささかセンチだ。
 上《あが》り框《がまち》に仁王立ちになった蒲生泰軒は、左右の手に、チョビ安とお美夜ちゃんの頭をなでながら、髯《ひげ》がものを言うような声で、
「蜀漢《しょくかん》の劉備《りゅうび》、諸葛孔明《しょかつこうめい》の草廬《そうろ》を三たび訪《と》う。これを三|顧《こ》の礼《れい》と言うてナ。臣《しん》、もと布衣《ほい》……作阿弥殿、御名作をお残しになるよう、祈っておりますぞ。お美夜坊と安のことは、拙者がどこまでも引き受けた」
 泰軒居士、いつになくかたくなって、そう言ったときだった。
 ドッと人ごみがどよめきわたったかと思
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