かいの前には、たち切らざるをえなかった。
ひややかに主水正をかえりみて、
「まいりましょう。御案内くだされたい」
ここへ来るときは、いくら日本一の名匠だとは言っても、たかが手仕事の工人《こうじん》、たんまり金銀を取らせるといったら、とびついてくるだろうと思っていた田丸主水正。
いっかな動きそうにもない作爺さんを相手に、懸命な押し問答のすえ、やっと今、腰を上げさせることができたのだが、ああして話し合っているあいだに、主水正はすっかり、この裏店《うらだな》の見るかげもない老人の人柄に、気おされてしまったのでした。
気品といいましょうか。人間の深みといおうか。いずれにしても、身についた芸術のはなつ、金剛不易《こんごうふえき》の光に相変わらない。
「はっ」
と、思わず頭を下げた主水正、もうまるで従者よろしくの体《てい》で、
「先ほどより、お駕籠がお待ち申しあげておりまする。では、どうぞ……」
冷飯草履《ひやめしぞうり》を突っかけた作阿弥は、竹の杖を手に、一歩路地へ踏みだそうとした。
家のなかから土間、路地へかけて、長屋の人で身動きもならない。
「かわいそうに作爺さん、どんな悪いこ
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