郎が、悠然《ゆうぜん》と柄杓《ひしゃく》をふるって、夕闇せまる庭に、静かに水をまいている。
 怪談にはもってこいの夏だ。
 おまけに。
 物《もの》の怪《け》の立つというたそがれどき。
 縁に立つ二人が、水を浴びたようにふるえおののいていると知ってか、知らずにか、源三郎は口のなかで、何か唄いながら、いつまでも草の葉、木の根に水をやっていたが、やがて、振り返りもせずにひとこと、
「丹波! 礼をするぞ。きっとそのうちに、挨拶するからなナ」
 せまる宵闇にからんで、しっとりした小声《こごえ》。
 源様ッ!……お蓮さまはせいいっぱいに叫んだような気がしたが、声をなさなかった。
 突如! バタバタという跫音《あしおと》に気がついて、振り返ったお蓮様は、顔色を変えた丹波が、廊下を、もと来たほうへと逃げかえるのを見た。
 意外千万にも源三郎が生きている! 生きてこの道場へ帰ってきている! もういけない! すべてはだめだ! と丹波は観念したのだろう。大きなからだをこまねずみのようにキリキリ舞いさせて、不知火《しらぬい》の弟子《でし》どものいる広間のほうへと、スッとんでいったが……。
 茫然とそれを見送
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