にゃア一人の身寄りもなくなるじゃアねえか、おいらの父《ちゃん》やお母《ふくろ》のことなんか、どうでもいいから、その日光の話とやらを、ポンと蹴っておくれよ。ナア、作爺ちゃん」
 と左右から、チョビ安とお美夜ちゃんにすがられた作阿弥、同時に二人の手を振りほどいて、
「田丸殿、迎えの駕籠が、待たせてあるとおおせられたな」
 スックと起ち上がった。
「泰軒どの、何やかやと、長いあいだ親身も及ばぬお世話にあいなった。御迷惑ついでに、それでは、この二人の面倒をお願いいたしまするぞ。泰軒先生」
「これはまた、気の早い。もう御出発か。イヤ、心得た。あとのことは御心配なく……田丸殿さえ言葉をたがえねば、安の両親はおっつけ知れるであろうし、お美夜ちゃんは、及ばずながらこの泰軒が娘と思って――」

       七

 心境の変化は、突如として起こることがある。
 その例の一つが、司馬道場のお蓮様。
 もっとも。
 近ごろお蓮様が、何やら身のはかなさを感じ、心細さにうちのめされていたことは、事実だ。
 それはそうでしょう。
 あくまで排斥しようとした源三郎に、断《た》つに断《た》てない愛を感じたのですもの。
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