。
五
「大岡越前守殿……」
と田丸主水正は、ソッとうち明けるように、早口につぶやいた。
南町奉行大岡越前守が、このトンガリ長屋の作爺さんこそ稀代の名手、作阿弥であることを、そっと柳生家へ知らせてくれたというのである。
聞く蒲生泰軒の眼が、チカリと光った。
「ウム、彼なれば早耳地獄耳、江戸の屋根の下の出来ごとは、一から十まで心得ているにふしぎはない。そうか、越州から知らせがあったのか」
ひとりごとのような泰軒の言葉。
が、どうして忠相《ただすけ》が、この作《さく》爺さんの前身を知っていたか、また、それをいかにして柳生へ通じたか、くわしいことはわからないけれど。
いま泰軒の言ったとおり、江戸の大空に明鏡をかけたように、大小の事々物々《じじぶつぶつ》、大岡様の眼をのがれるということはないのですから、この、巷に隠棲する作阿弥を、かねてからそれとにらんでいたとしても、すこしのふしぎもないので。
対馬守がこのたびの日光修営に、作阿弥の力を借りようとして、諸所方々へ手をのばしてその所在を物色しているということも、江戸じゅうに網のように張りわたしたお奉行様手付きの者の
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