「おいらも、何も言いたかねえけどさ、だって、そうだろうじゃアねえか。やっと橋下の乞食小屋で、かりにも、父《ちゃん》てエ名のつくお侍を一人拾い上げて、まあ、父《ちゃん》のつもりで孝行をつくす気でいたところが、そのお父上は穴埋めにされて、おまけに水浸しときたもんだ。いかに強《つえ》えお父上でも、あれじゃア形なしにちげえねえ。でも、死骸の出ねえところをみると、ヒョッとすると――どこにどうしているかなア、あのお父上は」
 木履に冷飯|草履《ぞうり》と、二人の小さな歩がからみ合って、竜泉寺はトンガリ長屋のほうへ……。
 その横町《よこちょう》の居酒屋《いざかや》、川越屋《かわごえや》の土間《どま》へとびこんだチョビ安は、威勢よく、
「オ、爺《とっ》ツアん、いつもの口《くち》を、五|合《ごう》ばかりもらおうじゃあねえか。飲《の》む口《くち》に待っていられてみると、どうも手ぶらじゃア帰《けえ》れねえや」

       二

 柳生家の定紋《じょうもん》を打ったお駕籠が一丁、とんがり長屋の中ほど、作爺《さくじい》さんの家の前に、止まっています。
 紺《こん》看板に梵天帯《ぼんてんおび》のお陸尺《ろ
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