、これじゃア一日のかせぎに、ちょっと足りねえや。もうちっと出そうなもんじゃあねえか。おう、そこにいる御隠居さん、十徳なんか着こんで、えらく茶人ぶっていらっしゃるが、そうやってふところンなかで、巾着切《きんちゃくき》りの用心に財布《せえふ》をにぎってばかりいねえでサ、その財布《せえふ》のひもを、ちっとといたらどんなもんだい」
名指された御老人は、苦笑しながら、小銭をつかんだ手を十徳の袖口から出して、チョビ安へ渡す。
ドッと湧く爆笑。
もう、忍びやかな夕陽《ゆうひ》の影が、片側の松平越中様の海鼠塀《なまこべい》にはい寄って、頭上のけやきのこずえを渡る宵風には、涼味《りょうみ》があふれる。
早い家では灯を入れて、腰高の油障子に、ポッと屋号が浮かび出ています。
なつかしい江戸のたそがれどき。
「サア、散った、散った。いつまで立っていたって、もう今日はこれで店仕舞《みせじめ》えだ。だがな、明日もここで、『辻のお地蔵さん』の所作事《しょさごと》をお眼にかけるから、お知りあいの方々おさそい合わせのうえ、にぎにぎしく御見物のほどを……ナンテ、さア、お美夜ちゃん。巣へ帰《けえ》ろうなあ。作爺さ
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