じゃねえや」
 チョビ安は、小さな握りこぶしで、鼻の頭をグイとこすり上げながら、
「エコウ、ほめてばかりいねえで、銭を投げなってことヨ。オイそこへゆく番頭さん、金を集める段になって、逃げるッてえテはねえぜ。なんでエ、しみったれめ!」
 一流の毒舌が、チョビ安の場合にはかあいい愛嬌《あいきょう》となって、あっちからも、こっちからもバラバラッと小粒が飛ぶ。
「むやみにほうらねえで、どうせのことなら、おひねりにしてくんねえ。お賽銭《さいせん》じゃアねえんだ」
 拾い集めた小銭を、両手の中でお美夜ちゃんの耳へ、ガチャガチャと振ってみせて、
「太夫さん、お立ちあいの衆がこんなにお鳥目をくだすったよ。お美夜ちゃんからも、お礼を言ってくんねえナ」
「まア、ほんとうにありがとうございます」
 お美夜ちゃんは恥ずかしそうに、唐人髷《とうじんまげ》の頭を、まんべんなくまわりへ下げる。
 そのあいだチョビ安《やす》はうしろの町家の天水桶《てんすいおけ》のかげにしゃがみこんで、地面へ敷いた手拭の上へ、
「一|枚《めえ》、二|枚《めえ》……」
 と銭を数え落としていたが、立ちあがって見物のほうへ向かい、
「オイ
前へ 次へ
全430ページ中248ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング