ている人があるんです。
 帷子《かたびら》に茶献上《ちゃけんじょう》――口のなかで謡曲《うたい》でもうなりながら、無心に水打つ姿。
 が、ハッとして足をすくませた丹波とお蓮様、チラリふり返ったその若侍の蒼白い横顔には、思わず、ギョッと……!

   街《まち》の所作事《しょさごと》


       一

 塗師町《ぬしちょう》代地《だいち》の前は、松平《まつだいら》越中守様《えっちゅうのかみさま》のお上屋敷で。
 角《かど》から角まで、ずっと築地《ついじ》塀がつづいている。
 その狭い横町に、いっぱいの人だかり……。
 とんぼ頭《あたま》の子供をおぶった近所のおかみさん、稽古《けいこ》帰りのきいちゃんみいちゃん、道具箱を肩に、キュッと緒の締まった麻裏をつっかけた大工さん、宗匠頭巾《そうしょうずきん》の横町の御隠居、肩の継ぎに、編笠の影深い御浪人。
 そういった街の人々が、ぐるりと輪をつくっています。
 酒屋の御用聞きが、配達の徳利《とくり》を二つ三つ地面にころがして、油を売っていると、野良犬がその徳利を、なんと勘《かん》ちがいしてかしきりになめまわしているのも、江戸の町らしいひとつの
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