……ただごとではない。
「どこにいる、今たしかに、この座敷の中で彼奴《きゃつ》の声がしましたが」
「どこにいるとは、誰がです。あいつとはエ?」
丹波の剣幕におどろき恐れて、お蓮様は一歩一歩、一隅へ下がりながら、ふと思った――峰丹波、乱心したのではあるまいか、と。
が、そうでもないらしく、丹波は大刀を握りしめたまま、じっとお蓮さまをみつめて、
「今あなたは、このへやで誰と密談しておられた。いやさ、たれを相手に、お話しておられた?」
「誰を相手に? まあ、丹波。おまえは何を言うのです。わたしはここに、さっきから一人で……」
沈思にふけっていたお蓮様、胸の思いが声に出て、思わず、あれやこれやとひとり言《ごと》をもらしていたことは、彼女自身気がつかない。
もう、いつのまにか夕暮れです。夏の暮れ方は、一種あわただしいはかなさをただよわして、うす紫の宵闇《よいやみ》が、波のように、そこここのすみずみから湧《わ》きおこってきている。
どこか坂下《さかした》の町家《ちょうか》でたたく、追いかけるような日蓮宗の拍子木《ひょうしぎ》の音《ね》。
やっと丹波は納得したらしく、ふしぎそうに首をかし
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