だもの。
が、こうなっても竹田は、自分が今、この千本松原でいのちを落とすことになろうとは、夢にも思いません。
思わないから、えらい元気で、剣輪のなかの左膳をどなりつけました。
「不所存者めがッ! 石川様のお壺行列へ斬りこむとは、いのち知らずの大たわけめ、そこ動くなッ!」
動くななんて言わなくたって、壺を手にしない以上、左膳のほうこそ、金輪際動く気はない。
数十人の石川家家臣に取りまかれた丹下左膳は、柄《つか》もとまで血によごれた濡れ燕を、左手にぶらさげて、眠ったようにたっている。
胸がはだけ、裾はみだれて、女もののはでな長襦袢に、さわやかな潮風が吹く。
いつのまにかはだしになり、脱いだ草履を裏あわせに、帯の横ちょへはさんで、今にもくずれそうにヒョロッとつっ立っているんですから、姿は無気味だが、見たところ、とても弱そう……。
つい今しがた、これらの人間を斬り捨てた左膳の働きを、もし竹田が見ていたら、もうすこし警戒もし、また他に取るべき手段もあったでしょうが、何しろ行列の先頭にいて、知らないんです。左膳の左膳たるところを。
倒れている仲間は、あわてすぎて、たがいの剣がふれた
前へ
次へ
全430ページ中205ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング