かまつるとしようかノ」
 頬の肉をピクピクさせて、顔をななめにつきだして相手を見ながら、ソロリソロリ左手を出す。同時に左膳、びっくりするような大きなあくびをした。
「ああウあ! そうだ、思い出したぞ。丸に一の字引きは、石川家だな。うむ、石川左近将監……」
 左膳があくびをするのは、鬱勃たる剣魔の殺情が、こみあげてくるときで。
 ところが、相手は、そんな危険な人物とはすこしも知らないから、
「狂人のくせに何を申す。たたッ斬ってしまうぞ!」
 一刀のもとに……と思ったのでしょう、いきおいこんで真っ正面から、打ちおろした。
 が! ふしぎ! 左膳はいつ抜いたのか、そして、いつ斬ったのか、ただ左手をこともなく左へはらったように見えたのだが、もう、腰の濡れ燕は鞘だけ。その鞘もとに、細長い三角形の穴が黒々とあいて、、刀身はすでに、左膳の片手にブランと持たれている。
 それよりも。
 その濡れ燕から一筋の赤い血潮が、斬尖《きっさき》を伝わって白い砂に、吸われる、吸われる。
 どうしたのだろう!……と見れば、色の黒い、口の大きな侍、腹を巻きこんで砂にすわったまま、動かない。一太刀に胴をえぐられたのだ。
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