名誉じゃ。イヤ、眼ざわりになる。じつにどうも、古いきたない壺だナ」
 と、変なことを言いながら、平然として、上り框《がまち》の屑竹をかえりみ、
「竹さん、貴公、どうしてこの壺を手にいれられたかな?」
 また叱られるのかと、屑竹はビクビクしながら、
「ヘエ、まったくどうも、こぎたねえ壺で、申しわけございません」
「イヤ、そうあやまらんでもよろしい。どこで、この壺をひろってこられたか」
「いえ、ひろってきたわけではないので。駒形の高麗屋敷の、とある横町を屑イ、屑イと流していますと、乙《おつ》な年増が、チョイト屑屋さん……」
「コレコレ、仮声《こわいろ》は抜きでよろしい」
「恐れ入ります。すると、その姐さんが、これはあまりきたねえ壺で、見ていても癪《しゃく》にさわってくるから、どうぞ屑屋さん、無代《ただ》で持って行っておくれと――」
「駒形の高麗屋敷?」
 と泰軒は、瞬間、真剣な顔で小首をひねったが、すぐ笑顔にもどり、
「イヤ、そうであろう。誰とても、このよごれた壺をながめておると、胸が悪くなる。こんな不潔な壺を長屋へ置くことはできん。竹さん、わしはこの壺をもらっていって、裏のどぶッ川へ捨て
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