る。
日本の世直しのためには、まずこの江戸の人心から改めねばならぬ。
それには、第一に、この身辺のとんがり長屋の人気を、美しいものにしなければならない。
と、そう思いたった泰軒先生。
乞われるままに、長屋の人々の身の上相談にのっているうちに、いつしか、毎夜こうして、先生が居候《いそうろう》をきめこんでいるこの作爺さんの家には、とんがり長屋の連中が、煩悶、不平、争論の大小すべてを持ちこんできて、押すな押すなのにぎやかさ。
嫁と姑の喧嘩から、旅立ちの相談、恋の悩み、金儲けの方法、良人《おっと》にすてられた女房の嘆き……いっさいがっさい。
それをまた泰軒先生、片っぱしから道を説いて、解決してやるのだった。
まるで、この人事相談が蒲生泰軒の職業のようになってしまったが、むろん代金をとるわけではない。
だが。
淳朴《じゅんぼく》な長屋の人達は、先生に御厄介をかけているというので、芋が煮えたといっては持ってくるし継《つ》ぎはぎだらけのどてら[#「どてら」に傍点]を仕立ててささげてくる者もあれば……早い話が、泰軒先生にはつきものの例の貧乏徳利《びんぼうどくり》だ。
あれは、このご
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