という騒ぎだ。あっしゃアこの親爺のところへ、何度となくどなりこんだんだが……」
「わが家の中で、おれがかってなことをするに、手前《てめえ》にとやかく言われるいわれはねえ」
「何をッ! 汝《われ》が好きなことなら、人の迷惑になってもかまわねえと言うのかッ」
「マア、待て!」
 と泰軒先生は、大きな手をひろげて、二人をへだてながら、
「これは爺さんに、すこし遠慮してもらわなくッちゃならねえようだ。人間は近所合壁《きんじょがっぺき》、いっしょに住む。なア、いかに好きな道でも、度をはずしては……」
「泰軒先生ッ! 屑竹《くずたけ》の婆あが、お願いがあって参じました」
 お兼婆さんの大声が、土間口から――。

       四

「そら、見ろ!」
 と左官《さかん》の伝次が犬猫の爺さんをきめつけたとき、
「先生様ッ! ちょっと自宅《うち》へ来てくださいッ。竹の野郎が、また酔っぱらって来て」
 叫びながら、人をかきわけて飛びこんできたお兼婆さん、いきなり泰軒先生の手をとって、遮二無二《しゃにむに》引きたてた。
 大は、まず小より始める。
 富士の山も、ふもとの一歩から登りはじめる……という言葉があ
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