。
「今夜は一つ、先生に白黒をつけておもらいしてえと思いやしてね。この禿茶瓶《はげちゃびん》が、癪《しゃく》に触わってたまらねえんだ。ヤイッ! 前へ出ろ、前へ!」
「こんな乱暴なやつは、見たことがねえ。泰軒先生、わっしからもお願いします。裁きをつけてもらいてえもんで」
負けずに横合いからのり出したは、その伝次の隣家《となり》に住んでいる独身者《ひとりもの》のお爺《じい》さんで。
「先生も御承知のとおり、わっしは生得《しょうとく》、犬《いぬ》猫《ねこ》がすきでごぜえやして……」
じっさいこのお爺さん、自分で言うとおり、犬や猫がすきで、商売は絵草紙売りなのだが、かせぎに出ることなど月に何日というくらい、毎日のように、そこらの町じゅうの捨て猫やら捨て犬をひろってきて、自分の食うものも食わずに養っているのだが。
それがこのごろでは、猫が十六匹、犬が十二匹という盛大ぶり。
犬猫のお爺さんでとおっている、とんがり長屋の変り者だ。
「そっちは好きでやっていることだろうが、隣に住むあっしどもは災難だ。夜っぴて、ニャアンニャアンワンワン吠えくさって、餓鬼は虫をかぶる、産前のかかアは血の道をあげる
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