ゆくぞ、ハッハッハ」
「こ、これ、あなたもいっしょに、左膳を止めてください」
 と源三郎は、萩乃へ、
「私があぶないところを助かったのは、みなこの左膳のおかげだ。穴の底から三方子川へ浮かびあがることのできたのも、また、この家のあるじ漁師六兵衛に救われたのも、みんな左膳がいたればこそだ。萩乃、こころから左膳に礼を言ってくれ」
 萩乃は、あらたまって左膳の前に両手をつき、
「なにから何まで、ほんとうにありがとうございました。源三郎様のことといい、今夜のことといい、御恩は生涯忘れはいたしません」
 その、身も世もなくよろこばしそうなようすを、左膳はしばらくじっと見おろしていたが、
「イヤ、萩乃さん、あんたにそう言われただけで、おれは、このうえの満足はない。無事な源三の顔が見られて、うれしいだろうなア萩乃さん」
「ハ、はい……」
「ははははは、そうだろうなあ。大事にしてあげなさいよ。源三、行くぜ」
「さ、さ、左膳。ド、どこへゆく?」
「どこへ? それはおれにもわからぬ。この腰の濡れ燕にきいてくれ」

       五

 夜明けの一刻《いっとき》前……。
 闇黒《やみ》がひときわ濃いときがある
前へ 次へ
全430ページ中156ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング