呆然たる丹波の胸中を、雨雲のごとく、あわただしく去来するのは他《た》なし、この疑念のみ。
 だが。
 そんな詮索は、今のところゆとりがない。たぶん、この煙のような刃妖左膳のことだから、いつのまにか土蔵へ忍びこみ、鎧櫃へ……としか推量のくだしようがないのだ。
 そんなことは、さておき。
 あわよく跡目を相続して、表むきこの道場を乗っとろうとする間際に、このもっとも恐れているじゃま者が、鎧櫃からわき出たのですから、さすがの短気丹波、口がきけないのもむりはない。
 ビックリ箱からお化けが出た形。
 半顔の刀痕をゆがめ、あごをななめに突き出した左膳、なにかこう押しつけるように、ソロリソロリと自分の前へせまってくるから、丹波、仰天した。
 そのとたんに、声が出た。子供のシャックリは、驚かせると止まりますが、ちょうどあんなようなもので。
「ブ、ブ、無礼者! 諸子、何をしておるッ! かかれ! かかれッ!」
 たてつづけにさけんだ。同時に、腰も立った。
 起つと同時に、パッとはねた裃の片袖、そいつが丹波の背中に、やっこ凧のようにヒラヒラして、まるで城中刃傷の型……からだが大きくて、押し出しがりっぱです
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