に旅に出たつもりなのだが……。
いくら振りかえっても、早駕籠はおろか、急使らしいもののかげも見えない。
ハテナ?
と与の公、小首をかしげたとたんに、六郷の宿で、この、さきへ行く壺の姿を見つけたというわけなんだ。
儀作の足も早いが、与吉の韋駄天は有名なものです。
今まで毎々《まいまい》ヤバイからだになって、一晩のうちに何十里と、江戸を離れてしまわなければならない必要にせまられるから、いやでも応でも、早足は渡世道具のひとつ。
で……やっと追いついたのが、この神奈川の腰かけ茶屋。
「おやすみなさいやアせ」
「何を言やアがる。やすむなといったって、おいらアこの家に用があるんだ。今ここへ、茶壺がへえったろう」
オットットット! 口をおさえた与吉、見ると、土間をつっきった奥の腰かけに、その茶壺のつつみをそばに引きつけた若党が、渋茶か何かで咽喉をうるおしているから、イヤ、与の公、ことごとくよろこんじまって、
「これは、どうも。よい風が吹きますなあ。そのお腰かけの端のほうを、あっしにも拝借させていただきやしょう」
口のうまいやつで、そんなことを言いながら、
「あれが安房《あわ》上総《か
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