海辺へかけては、海苔をつけるための粗朶《そだ》が、ズーッと垣根のように植えられています。名物ですなア。
これが、江戸《えど》の江戸らしいものと別《わか》れる最後《さいご》。
急ぎの旅だから、いい景色も眼にはいりません。六郷の水は、ゆるやかに流れて、広い河口のあたり、蘆のあいだに上下する白帆が隠見する。
やがて神奈川、狩野川をはさんだ南北に細長い町。海に面した見はらしのいい場所に、茶店が軒を並べております。おなじみの広重の絵を見ましても、玉川、たるやなどとありますとおり。
有名な文句の、
「おやすみなさいやアせ。あったかい冷飯もござりやアす」
「旦那さん、煮たてのさかなのさめたのもござりやアす。おやすみなさいやアせ」
細い坂みちに姐さんたちが出ばって、口々に客を引く。儀作もようやく咽喉の乾きをおぼえましたので、潮風の吹きあげる縁台に腰かけて、
「日中はなかなかむすじゃあねえか」
額の汗をふいておりますと、
「おやすみなさいやアせ」
表のほうに、客引き女の黄色い声がわいて、儀作のあとを追うように、ズカリとその茶店へはいってきた一人の男。
唐桟《とうざん》の袷をつぶ[#「つぶ
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