ついては、いろんな話がのこっております。水のいっぱいはいった茶碗をささげて、一日歩いても、一滴もこぼさなかったなんてことをいう、完全にからだの平均がとれて、一つもむだな動きがないから、全精力をあげて歩くほうに能力があがったというわけでありましょう。
また。
あるおそろしく足の早い人は、胸へ紙一枚当てて歩いて、けっして落ちなかったという。
そうかと思うと、ある人の通り過ぎたあとには、あまりの勢いに空気が渦をまいて、屋根瓦が舞いあがるやら……そんなのは当てにならない。
林念寺のお上屋敷をあとにした柳生家の若党儀作、たった一人で、伊賀の国をさして江戸を出はずれました。
妙な荷物をかついでいる。
例の松の木にぶらさがっていた贋のこけ[#「こけ」に傍点]猿を、ぐるぐるッと風呂敷包みにして、ヒョイと背中へはすかいに――。
この壺の一伍一什《いちぶしじゅう》を知らせに走るのだから、証拠物件としてしょって来たのだ。
同時に。
壺の騒ぎを知る人に対しては、こけ猿ここにあり、という宣伝にもなる、が、何も御存じない連中には、大きな茶壺をしょって粋狂な! としか見えません。
品川から大森の
前へ
次へ
全430ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング