さしのぞく源十郎の口を突っぱしる。
ところが相手は、答えるまえに、落ち葉の褥《しとね》にゆっくりと胡坐《あぐら》を組んで、きっ[#「きっ」に傍点]と源十郎を見返した。
熟柿《じゅくし》の香がぷんと鼻をつく。
乞食にしても汚なすぎる風体。
だが、肩になでる総髪、酒やけのした広い額、名工ののみ[#「のみ」に傍点]を思わせる線のゆたかな頬。しかも、きれながの眼には笑いと威がこもって、分厚な胸から腕へ、小山のような肉《しし》おきが鍛えのあとを見せている。
年齢は四十にはだいぶまがあろう。着ているものは、汗によごれ、わかめのようにぼろの下がった松坂木綿の素袷《すあわせ》だが、豪快の風《ふう》あたりをはらって、とうてい凡庸《ぼんよう》の相ではない。
あっけにとられた源十郎が、二の句もなく眺めている前で、男はのそり[#「のそり」に傍点]と溝を出て来た。
ぱっぱっと身体の落ち葉は払ったが、あたまに二、三枚銀杏の葉をくッつけて、徳利を片手に、微風に胸毛をそよがせている立ち姿。せいが高く、岩のような恰幅《かっぷく》である。
偉丈夫――それに、戦国の野武士のおもかげがあった。
すっかり気を
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