丹下左膳
乾雲坤竜の巻
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)更《ふ》けてゆく

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大小|二口《ふたふり》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》
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   夜泣きの刀

 しずかに更《ふ》けてゆく秋の夜。
 風が出たらしく、しめきった雨戸に時々カサ! と音がするのは庭の柿の病葉《わくらば》が散りかかるのであろう。その風が隙間を洩れて、行燈《あんどん》の灯をあおるたびに、壁の二つの人影が大入道のようにゆらゆらと揺ぐ――。
 江戸は根津権現《ねづごんげん》の裏、俗に曙《あけぼの》の里といわれるところに、神変夢想流《しんぺんむそうりゅう》の町道場を開いている小野塚鉄斎《おのづかてっさい》、いま奥の書院に端坐して、抜き放った一刀の刀身にあかず見入っている。霜をとかした流水がそのまま凝《こ》ったような、見るだに膚寒い利刃《りじん》である。刀を持った鉄斎の
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