刀が刀をひいて、早くも、左膳につながる自分の眼に触れたのか――こう思うと、源十郎もさすがにうそ[#「うそ」に傍点]寒く感じて、しばし、
「どうすればよいか?」
と、とっさの途《みち》に迷ったが、すぐに、
「なに、左膳は左膳、俺は俺だ。もう少しこの青二才を見きわめて、その上で左膳へしらせるなりなんなりしても遅くはあるまい。それに、こんな男女郎《おとこじょろう》の一|束《そく》や二束、あえて左膳をわずらわさなくとも、おれ一人で、いや与吉ひとりで片づけてしまう」
ひとり胸に答えて、なおも、さりげなく眼を離さずにいると、そんなこととは知らないから、栄三郎はさっそく要談にとりかかる。
「用人の白木重兵衛《しらきじゅうべえ》が参るべきところであるが、生憎《あいにく》いろいろと用事が多いので、きょうは拙者が用人代りに来たのだ。実は、鳥越の屋敷の屋根が痛んだから瓦師《かわらし》を呼んだところが、総葺替《そうふきか》えにしなければならないと言うので、かなり手数がかかる。兄も、ここちょっと手もとがたらなくて、いささか困却《こんきゃく》しておるのだが、三期の玉落ちで、元利《がんり》引き去って苦しくない
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