男か女か」
「女でございます」
「女か――それでも、楽しみは楽しみだな」
「なんの、殿様、これがもし男の子でしたら、伝手《つて》を求めてまた主取《しゅど》りをさせるという先の望みもございましょうが、女ではねえ……それに――」
「主取りと申すと、貴様武家出か」
「はい。お恥ずかしゅうございます」
「ほほう。それは初耳だな。して藩はどこだ?」
「殿様、そればかりはおゆるしを。こうおちぶれてお主《しゅ》のお名を出しますことは――」
「それはそうだ。これはおれが心なかったな。しかし、さしずめ永の浪々のうちに配合《つれあい》をなくして、今の境涯に落ちたという仔細《しさい》だろう?」
「お察しのとおりでございます」
「それで、その娘というのはいかがいたした?」
「宿元へ残して参りましたが、それが殿様、ほんとに困り者なんでございますよ」
「どうしてだ?」
「いえね。まあ、この婆あとしては、幸い資本《もとで》を見てやろうとおっしゃってくださる方もありますから、しかるべき、と申したところで身分相当のところから婿《むこ》を迎えて、細くとも何か堅気な商売でも出さしてやりたいと思っているのでございますが、親の
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