焚き火の用意をし、菰被《こもかぶ》りをならべて、鏡を抜き杓柄《ひしゃく》を添える。吉例により乾雲丸と坤竜丸を帯びた一、二番の勝者へ鯣《するめ》搗栗《かちぐり》を祝い、それから荒っぽい手料理で徹宵《てっしょう》の宴を張る。
林間に酒を暖めて紅葉《こうよう》を焚く――夜は夜ながらに焚き火が風情をそえて、毎年この夜は放歌乱舞、剣をとっては脆《もろ》くとも、酒杯にかけては、だいぶ豪の者が揃っていて、夜もすがらの無礼講《ぶれいこう》だ。
が、その前に、乾坤の二刀を佩《は》いたその年の覇者《はしゃ》を先頭に、弥生が提灯《ちょうちん》をさげて足もとを照らし、鉄斎老人がそれに続いて、門弟一同行列を作りつつ、奥庭にまつってある稲荷《いなり》のほこらへ参詣して、これを納会《おさめ》の式とする掟になっていた。
植えこみを抜けると、清水観音の泉を引いたせせらぎに、一枚石の橋。渡れば築山《つきやま》、稲荷はそのかげに当たる。
月の出にはまがある。やみに木犀《もくせい》が匂っていた。
――丹下左膳に、ともかくおもて向ききょうの勝抜きとなっている森徹馬が打たれてみれば、いくら実力ははるか徹馬の上にあるとわ
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