軒は低頭して、
「どなたかは知らぬが、思うところあって御助力くださるものと存ずる」
「いかにも! すべて殿の命《めい》でござる。いたるところに疾《とく》に手配してあるによって、安堵して追いつめられい!」
 という意外な情けの言葉に、
「殿《との》……とは?」
 泰軒が問い返すと、
「サ、それはお答えいたしかねる。とにかく一刻を争う場合、瞬時も早くこの馬を駆って――」
 終わるのを待たで御免! とばかり鞍にまたがった泰軒と栄三郎、左膳の去った方をさしてハイドウッ! まっしぐらに馳せると、いくこと暫時にして左膳の姿を認めだしたが、左膳、馬術をもよくするとみえて、なかなかに追いつけない。三頭の馬が砂ほこりを上げて江戸の町を突っきり、ついにいきどまって浜辺へ出た。
 汐留《しおどめ》の海である。
 見ると、ヒラリ馬から飛びおりた左膳は、前から用意してあったらしく、そこにもやってある一艘の伝馬船《てんません》へ乗り移ったかと思うとブツリ……綱を切り、沖をさして漕《こ》ぎ出した。
 船には、さっき月輪の三人が、弥生と乾坤二刀を積みこんで待っていたのだ。
 さては! 海路をとって相馬中村へ逃げる気とみえる! と栄三郎と泰軒が船をにらんで地団駄《じだんだ》をふんだとき。
 スウッと背後に影のように立った、またもや覆面の士!
 ふたりには頓着なく、
「これへ!」
 とさし招くと、艪《ろ》の音も勇ましく船べりを寄せてきた一隻の大伝馬がある。
「乗られい!」
 侍がいった。
 その声に、泰軒はおぼえがあるらしく、
「オ! 貴公は大……!」
 いいかけると、侍が手を振った。だまって船を指さしている。
「わかった! すべて、貴公の胆《きも》いり――かくまで手配がとどいていたのか。ありがたい! さすが南の……オッと……何にもいわぬ! これだッ!」
 と泰軒、手を合わせて件《くだん》の侍を拝むと、侍は頭巾の裏で莞爾《かんじ》としているものとみえて、しきりにうなずきながら、早く乗り移れ! と手真似をする。そして!
「前々から彼奴《きゃつ》ら一派の動静は細大洩らさず探ってあって、きょうの手はずもとうにできておった。それからナ彼奴にはもう何人《なんびと》の呼吸もかかっておらぬぞ。よいか、外桜田に相馬の上屋敷がある。そこの江戸家老を呼んでいささかおどかしたのじゃ。ついに、刀を集める左腕独眼の剣士、そんな
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