を顧みた。
「ながらく御厄介になり申したが、手前もこれにておいとまつかまつる。刀と娘御は、拙者が試合に勝って鉄斎どのより申し受けた品々……はッはッはは、ありがたく頂戴《ちょうだい》いたすとしよう」
 栄三郎が、口をひらくさきに、泰軒が大笑した。
「まだその大言壮語にはちと早かろうぞ! 貴公の剣、それを正道に使うこころはないかな、惜しいものじゃテ」
「何をぬかしゃアがる! 正道もへったくれもあるもんか。おれアこれでも主君のために……」
「ウム! いいおったナ」
 泰軒は一歩すすみ出た。
「主君のために! おお、そうであろう、いかにもそうであろう! 藩主相馬大膳亮どのの蒐刀《しゅうとう》のために――はははは、越前もそう申しておった……」
 キラリ眼を光らせた左膳、
「越前……とは、かの南の奉行か?」
「そうよ! 越前に二つはあるまい!」
 と、聞くより左膳、
「チェッ! その件に越州《えっしゅう》が首を突っこんでおるのか……ウウム! それではまだ、てめえのいうとおり、おれも安心が早すぎたかも知れねえ! や! こりゃアこうしちゃあいられねえぞ」
 声とともに左膳は、パッ! おどり立って一刀を振ったかと思うと、それッ! と構えた泰軒栄三郎のあいだをつと走り抜けて、折りから、むこうの小みちづたいに馬をひいて来た百姓のほうへスッとんでゆく。
 左膳が百姓を突きとばすのと、かれがその裸馬へ飛び乗るのと、驚いた馬が一散に駈け出すのと左膳がまた馬上ながらに手を伸ばして立ち木の枝を折り取り、ピシィリ! 一|鞭《むち》、したたかに奔馬をあおりたてたのと、これらすべてが同瞬の出来事だった。
 鞍上《あんじょう》人なく、鞍下《あんか》馬なし矣。
 左膳はほしとなり点となって、刻々に砂塵のなかに消え去ってゆくのだ。
 その時だった。
 唖然《あぜん》としていた泰軒と栄三郎が耳ちかく悍馬《かんば》のいななきを聞いたのは。
 時にとって何よりの助けの神!
 と、馬のいななきに、泰軒と栄三郎がふり返ってみると!
 覆面の侍がひとり、二頭の馬のくつわをとって、いつのまにやら立っている。
 ふたりはギョッとしていましめ合ったが、黒頭巾の士は、馬をひいてツカツカと歩みより、
「お召しなされ! これから追えば、かの馬上左腕の仁のあとをたどることも容易でござろう。いざ、御遠慮なく!」
「かたじけない!」
 泰
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