中心に巻き締めてありました」
「フウム! よかったなア……」
「その時、得印先生はハラハラと涙をこぼされましたが、イヤ、わしどももみんな泣きましたぜ。正直、うれし泣き……ねえ伊織さま、涙が、なみだがボロボロ――畜生ッ! こぼれやがったッ……ハッハッハ!」
「それは、そうであろう。伊織も衷心《ちゅうしん》からおよろこび申しあげる。多年の本懐を達せられた御老人の心中こそ察せられるなあ」
「へえ、そのとおりで」
と、男は、今さらのように握り拳で鼻のあたまをこすりあげていたが、
「お! そうだ! こうしちゃいられねえ――伊織さん、先生がいうにゃア、自分はこれからただちに水火の秘符《ひふ》を持って美濃《みの》の関《せき》へ帰るが、ついてはこの二刀はもともとお前さまのお家の物、先生としちゃア文状《もんじょう》さえ手に入れれば夜泣きの刀には用はねえ。このまま正式のもち主のあんたへ返すから、今までどおり世々代々大切に伝えてもらいたい……また会うこともなかろうからくれぐれも身体を大事に……とね、こういう伝言でごぜえましたので、わたし一人がこの二剣を持ってちょっと帰って来ましたが、先生はじめ一同は、品川に駕籠をとめて待っております。では伊織さん確かにお渡ししましたぜ!」
声と、乾坤《けんこん》双刀とを弥生に残して、男は、もう森の中の小径《こみち》を走り去っていた。
はっとわれに返った弥生、眼を凝《こ》らして見るまでもなく、いま駕籠かきの大男が残していった乾坤二剣夜泣きの刀が、わが手にある!
此剣《これ》[#「此剣《これ》」は底本では「此|剣《これ》」]のために、父鉄斎とは幽明《ゆうめい》さかいを異にし、恋人栄三郎を巷に失った不離剣《ふりけん》……去年《こぞ》の秋以来眼を触れたこともなく、今また幾年月その包蔵していた水火の割り文を柄の裡《うち》より吐きさったにかかわらず、その間、何事もなかったかのように、弥生の白い手に抱きあげられている一番《ひとつがい》の珍剣稀刀――。
思えば、乱麻の悪夢であった。
もつまじきは因縁の名刀……しみじみとそんな気がこみあげてきて、弥生がボンヤリとまず夜泣きの両剣を腰間に帯《たい》してみようとした――その一刹那!
忘れていた山淑の豆太郎……。
土壇場《どたんば》へじゃまがはいって、手のうちの玉をおとした思いのところへ、見ると、弥生がもとより詳
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