るだけのがれるつもりでなおも抗争をつづけていると……。
食いしばった歯のあいだから、哀願するごとく豆太郎がいう。
「ねえ弥生さん! わたしゃ今までお前さんのために無代《ただ》で働いて来た。何ひとつ、礼をもらったことがねえ。それというのも、女としてのお前さんにあッしゃアたった一つのこの望みがあったからだ。よう、そう没義道《もぎどう》なこといわねえで――!」
と、こんどは手を合わして拝まんばかりにあわれっぽくもちかけてくるのを、決然として飛びのいた弥生は、手早く着くずれをなおしながら、
「さがれッ! 言語道断な奴めッ! かならずその分には捨ておかぬぞッ!」
小野塚伊織のいきで大喝すると!
「エイ! もうこれまでだッ!」
わめいた山椒の豆太郎、いっそう荒れ狂って跳《と》びついてくる。
流し場……すべる。
足場がわるい。
ツルリと足をとられて倒れた弥生へ、半狂乱の豆太郎が獣《けもの》のごとく躍りかかって――落花狼藉《らっかろうぜき》……。
と見えた刹那……。
ドン!
ドン!
どんどんドン! と湯殿の戸をたたく音がして、
「伊織さん! 伊織さんいませんかえ?」
という男の声だ。
ハッとしてひるむ豆太郎をつきのけ、弥生が走りよって戸をあけると!
この家の駕籠舁《かごか》きのひとり、得印門下|平鍛冶《ひらかじ》の大男、ゆうべ五梃かごをかついで来たのが、一人であわただしく駈け戻ってきたらしく肩でゼイゼイ声も出ずに、
「オ! これだ!」
と!
やにわに弥生の眼前へつきだしたのを見ると!
乾雲坤竜――夜泣きの刀の一対!
「やッ! ついに二剣ところを一に? そんならアノ、ゆうべの斬りこみで……」
いいかける弥生を手で制した平鍛冶の駕籠屋、
「いそぎますから長ばなしはできねえが、まアよんべ乾雲と坤竜が撃ちあってる最中へうちの大将が跳びこんでね、どうも大層なチャンバラだったが、とどのつまりわしら十人のお駕籠者まで加勢して左膳と栄三郎をおさえつけ、やっと二つの刀をとりあげましたよ、サ、そこで……」
「おウ、そこで?」
「夜明けのうちに八ツ山下まで突っ走って駕籠の中で老先生が、この両剣の柄、赤銅《あかがね》のかぶせをはずしてみると――」
「うむ?」
「出て来ましたね」
「水火の秘文《ひもん》がかッ?」
「はい! 細い紙きれへこまかい字でビッシリ書いて、しっかり
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