に対して、いささかの疑いをもっていたのだったが、それが過日、子恋の森はずれで瓦町の若侍を助けて、彼が伊織を弥生と呼ぶのを聞いて以来、いっそうその疑念を深め、おりあらば確かめてやろうと機会をねらっていたのだったが、とうとう今朝《けさ》[#「今朝《けさ》」は底本では「今|朝《けさ》」]!
人なき家に、ひとり弥生が入浴しているので、よろこんだ豆太郎、そっと隙見《すきみ》をしてみると!
ふくよかな乳房もあらわに、雪の肌に一糸もまとわぬ湯あがりの女性裸身……。
豆太郎は、亀背の小男という生れつきで、今まで女という女に相手にされたおぼえがないから、いま、この森の中の一軒家に、若侍に化けた女とふたりきりでいるということは、豆太郎を狂暴にするに十分だった。
しかも……。
のぞき見た弥生の裸形――豆太郎は、呼吸が苦しくなった。
で……。
じっと湯殿の戸のそとに立って待ちぶせている――。
とは知らない弥生が、そそくさと着物を羽織って戸を開けた時だった。
「見たぞ!」
うわずった豆太郎の声である。
ドキン! としながらも、弥生は笑いにまぎらそうとした。
「なんだ! 豆ではないか……何を見たと申す?」
「見たぜ!」
豆太郎の顔が、ゆがみつつ寄ってくる。
「だから、何を見たと申すのだ?――どけ……そこをどけ!」
「いンや、どかねえ! エッヘッヘ、お前さんが女子だってエことをちゃんとみてとった以上、この豆太郎に、ちっとお願いがあるんでネ……」
弥生は、醜く光る豆太郎の眼におされて、思わずタタタ! 二あし、三あし湯殿のなかへ後戻りした。
ピシャリ! つづいてはいって来た豆太郎が、うしろ手に戸をとざしたのだ。
気ちがいのようにつかみかかってくる豆太郎を、弥生が必死に防いでいる時だった。
せまい湯殿の中のあらそいだから、身体の小さな豆太郎には都合がいい。その上弥生はすっかり女のこころもちに返ってしまって、ともすれば負かされ気味に、そこへねじふせられそうになる。
小熊のように肉置《ししお》きのいい豆太郎が、煩悩《ぼんのう》のほのおに燃えたって襲ってくるのだ。その、大きな醜悪な顔を間近に見たとき、弥生はもはや観念のまなこをつぶろうとした。
飼い犬に手を咬まれるとはこのこと。
弥生は、生ける心地もなく、それでも今にも得印老士の一行が帰ってこないものでもないからのがれられ
前へ
次へ
全379ページ中366ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング