が来た。
あらしののちの静寂《しじま》には、一種の疲れがはらまれている。
金色の陽の矢が青山子恋の森に射しそめたころおい……。
弥生は、いつものとおり朝の湯につかっていた。
起きぬけに入浴するのが弥生のならわしになっていたので、彼女は一日もかかさずに続けて来たのだったが。
ゆうべは。
じぶんと豆太郎を留守《るす》において得印《とくいん》兼光老士は、門弟の火事装束の士四名と、平鍛冶を人足に仕立てた十人の大男に駕籠をかつがせて本所の化物やしきを夜襲したままいまだ帰ってこない――でユックリと風呂にはいっている気もしないのだったが、それでも、湯がわいたと豆太郎が知らせに来たとき彼女は思いきって湯殿へ立ったのである。
昨夜、鈴川方に、栄三郎が坤竜を佩《はい》して夜討ちに来ていることはきのうの午さがりから豆太郎の偵査《ていさ》によって当方にはわかっていた。
いわば、そうして雲竜二刀が双巴《ふたつどもえ》の渦をまいているところへ、横あいから飛びこんで、ふたつの剣を同時に掠《かす》めとろうというので、さくやは一同、ことのほか勢いこんで出かけたわけだが……うまく左膳から乾雲を、栄三郎から坤竜をとりあげて、関の孫六の末得印兼光はたして流祖の秘文水火の合符《がっぷ》を入手するであろうか?
湯にひたりながら風雨のあとのなごんだ空を窓に見て、小野塚伊織の弥生、しきりに思いめぐらしている。
もとより、栄三郎さまにはお怪我のないよう――間違いのないようにと、得印老人をはじめ四人の部下によく頼んでおいたものの、仔細を知らぬ栄三郎が、そうやすやすと秘刀坤竜を渡すはずがない、必ずや大いに剣闘したことであろうが、そのはずみにもしや栄三郎さまに……と思うと弥生、留守を預っているとはいえ、とてものんきに風呂なぞつかっていられなくなって、
「まだ戻られぬとは、どうしたのであろう?」
われ知らずひとりごと、急にあがりじたくをはじめて身体を拭《ふ》きだした。
弥生はやはり弥生、いまだに栄三郎を恋い慕う純なこころを失わずにいるのだった。
それはいいが!
この風呂場の羽目板の節穴からひとつの眼がのぞいて、弥生の入浴を終始見守っていた者がある。
甲州無宿|山椒《さんしょう》の豆太郎だ――。
かれは、最初、まつりの日に弥生に見いだされて雇われた時から、弥生のいわゆる伊織が男であるということ
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