庇《かば》ったから、栄三郎は、手なれの豪刀武蔵太郎を引くと同時にくり出して、左膳の胸部を狙って板割りの突きの一手……。
同瞬!
落ちこまんとした穴を、ふち伝いにうしろに避けた左膳、柄をひるがえして下から上へ、クアッ! 太郎安国をたたきあげるが早いか、そのまま振りかぶった稀剣《きけん》乾雲、左腕、うなりを生じて真っ向から栄三郎の面上へ!
「こうだッ!」
と一声。
閃落《せんらく》した――と思いのほか!
刀下一寸にして側転した栄三郎神変夢想でいう心空身虚、刹那に足をあげたと見るや、栄三郎グッ! と、平七郎のわきばらを一つ、見事にあおっておいてまた逆返し。
今度は!
右うでのない左膳の右横から、声もかけず拝みうちに撃ちこんだので、防ぎ得ず左膳、血けむり立てて※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》ッ! そこに倒れた……と見えたその濛々《もうもう》たる昇煙は。かわしながら、左膳がとっさに足にかけた煙草盆の灰神楽《はいかぐら》で、左膳自身は早くも壁を背負って立った猪突の陣、独眼火をふいて疾呼《しっこ》した。
「サ! 骨をけずってやる。此剣《これ》でヨ、ガジガジとナ……ヘヘヘヘ、来いッ野郎ッ……」
相対した栄三郎、下目につけた不動の青眼、寂……として双方、林のごとく静止。
泰軒はいかに?
と観れば……。
北国の雄師月輪軍之助、一の遣い手各務房之丞、二番山東平七郎の三角剣の中央に仁王立ち――相も変わらず両眼をなかばとじて無念無想、剣手をダラリと側にたらした体置きは、先生にして初めて実応し、この修羅場に処して機発如意《きはつにょい》なる自源流本然のすがた水月の構刀《こうとう》だ。
ピタッと幾秒かのあいだ、屋内の剣戦が、相互に呼吸をはかりあう状に入って休断すると……ゴウッと風のひびき。
雨戸を打つ大粒な雨あし。
依然として紋つきを着た枕あんどんの光が、ふとんにくるまった轟玄八の死骸を、まるで安眠しているかのように、おだやかに照らしている。
が、しかし!
この不動対立は長くは続かなかった。
たちまちにして闘機《とうき》再発し、せまい離室に剣閃矢と飛び、刀気猛火のごとく溢れたったがために。
この時すでに!
はなれの外《そと》に五人の火事装束が猫のように忍びよって、グルリと取り巻いて折りをうかがっていたのを、誰も知るものはなかった。
朝
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