、毎日カンカンになって怒っていた源十郎のことだからフラリと、狐憑《きつねつ》きのようにはいってきたおさよ婆さんを見ると、源十郎、われにもなくカッとなって、いいわけのことばも聞かばこそ、おのれッ! とわめきざま、やにわにおさよを板の間へ押しつけて、
「これッ さよッ! 母に似ておるなどと申し、奉っておいたをいいことに、貴様、なんだナ、おれから五十両かたりとって、お艶と栄三郎をいずくにか隠したものに相違あるまい。いや、初めから三人で仕組んだ芝居であろう! ふとい婆アめ! どの面《つら》さげてメソメソと帰りおった――ウヌッ」
 というわけで、おさよには碌《ろく》にものも言わせず、いきなり責め折檻《せっかん》にかかったから、五十六歳になるおさよ婆さん、苦しさのあまりあたりかまわず悲鳴を上げる。
 ……その声が!
 戸外のあらしを貫いて、離れの左膳の耳にまで達したのだった。
 たださえ。
 すさまじい風雨の夜ふけ。
 その物音にまじって漂う老婆の哀泣《あいきゅう》である。これには、さすが刃魔の心臓をすら寒からしめるものがあったとみえて、ひとり眼ざめて夢判断をしていた左膳が、思わずブルルル! 身ぶるいとともに夜着をひっかぶろうとしたとき!
 どこからともなく……。
「乾雲! これ、坤竜が慕うて参ったぞ! 坤竜が来たのだ! あけろ!」
 低声《こごえ》である。
 それが、たとえば隙洩る風のように左膳の耳にひびいたから、ハッ! としながらも――。
 耳のせい……ではないか?
 と!
 たしかめようとして、左膳が枕をあげた――いや、あげようとした、その瞬間であった。
 左膳と、むこう側の月輪軍之助の臥《ね》ているところとのあいだに、たたみ一畳のあきがあって、のみかけの茶碗や水差しが、どっちからでも手がとどくように、乱雑に置いてあるのだが!
 ふしぎ!
 左膳が、地震ではないか?……と思ったことには。
 その茶碗や水さしがひとりでに動き出して、オヤ! と眼をこすって見ているまに!
 ムクムクと下から持ちあがった畳!
 それが、パッ! と撥ね返されると!
 驚くべし――。
 いつのまにやら床板がめくりとられて、ぱっくりと口をあいた根太《ねだ》の大穴。
 しかも。
 そこに、まるで縁の下から生えたように突ったちあがった二人の人物……諏訪栄三郎に蒲生泰軒。
 あらしの音にまぎれて忍びこみ、下
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