そと》へ出ずにいても、いつも世の動きを耳へ入れておくことのできたのは、このつづみの与吉があいだに立って絶えず報知《しらせ》をもちこんできていたからで、誰知らぬ場所とはいえ、与の公だけはとうからこのお藤姐御が一代の智恵をしぼった隠れ家を心得ていたのだ。
今、
その与吉が、いつになくあわてふためいて駈けこんで来たのだから、さすがのお藤が胆《きも》をつぶしたのももっともで、
「なんだねえ、与のさん、ただ大変じゃアわからないじゃないか。何がどうしたッていうのさ」
こう落着きをよそおってききながらも、お藤は不安らしくジリジリしていると、天地のあかるい夕焼けの一刻から急に黒暗々の地室へ走りこんだので目が見えなくなったも同然になったつづみの与の公、腰を抜かすように、ペッタリ破れ筵《むしろ》にしりもちをつくなり、
「おちついてちゃアいけねえ! と、とにかく大変! く、首が飛びます首がッ!」
「ホホホホ!」お藤は笑い出した。
「そりゃア、与の公、お前らしくもない。いまに始まったことじゃアないじゃないか。お互いさま、いつ首が飛ぶか知れない身の上なんだから考えてみると、おとなしくしているだけ損なわけさね」
与吉は、ことばより先に、大きく頭上に両手を振りみだして、
「チョッ! そ、そんな……そんなのんきなんじゃアねえ! なにしろ姐御《あねご》、本所の殿様と左膳さまが、あっしと姐御を重ねておいて二つにしようってんだから――」
「おや! それあおもしろい! けど嫌だよ、お前といっしょにふたつにされるなんて……不義者じゃアあるまいし」
「さ! そこだ!」
と与吉は乗り出して、
「さっきわたしが左膳さまのはなれへちょいと顔出ししようと思ってネ、ぼんやりあそこの前まで行くてえと、なんだか話し声がするじゃアございませんか」
「そのなかに、与吉、お藤てエのが聞こえたから、こりゃアあやしい、なんだろう?――こう思ってジッと聞いてみるてえと――」
「そうすると?」
「驚きましたね」
「何がサ?」
「イヤハヤ! おどろき桃《もも》の木|山椒《さんしょう》の木で、さあ!」
「うるさいねえ。なんでそう驚いたのさ」
「いえね姐御、お前さん鈴川の殿様に、弥生さんのいどころを知らせておやんなすったろう?」
「ああ。ちょいと考えがあって知らせてやったのさ。それがどうかしたのかえ?」
「そいつだ! 実ア姐御、あッ
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