前の笹藪《ささやぶ》がざわめいて、兎のように躍り出たのは、帯のまわりに裸の短剣をズラリとさしまわした亀背の一寸法師!
 これが弥生に使われる山椒の豆太郎であろうとは、栄三郎はもとより知るよしもないから、ハッとして立ちすくんだ刹那、その怪物のうしろに、もう一人立ち現れた覆面の人影、美しい若侍とみえて澄んだ眼が二つ、顔の黒布のあいだからジッと栄三郎を見つめたまま、しきりに手を上げて、栄三郎に停止の意味を示している。
 弥生!――とは夢にも知らない栄三郎、この、人猿めいた怪物と、その飼主らしい撫肩《なでがた》の若侍とを斬りまくってゆくくらいのことは、さして難事でもないように感じられたが、そのまに、片うでを空《くう》にうちふりつつ見る見る森の下を駈けぬけてゆく左膳のすがたが、だんだん遠ざかりつつあるのを知ると、栄三郎も追跡を断念してあらためて眼のまえの小男と、そのうしろに立っている若侍とを見なおした。
 灌木《かんぼく》と草とに、ほとんど全身を埋めて、大きな顔をニヤつかせている小男!
 なんという奇怪な! こんな奇妙な人間は見たことがないと……思うとたんに、栄三郎は、一瞬|悪寒《おかん》が背筋を走るのをおぼえて、こんどは、この男の主人らしい若侍へ目を移した。
 やせぎすの小男……黒のふくめんをしているので、その面立《おもだ》ちは見きわめるよしもないが、切れ長のうつくしい目がやきつくように栄三郎のおもてに射られて、それが、単に気のせいか、なみだにうるんでいるごとく栄三郎には思われるのだ。
 栄三郎はキッとなった。
「助剣のおつもりかは知らぬが、いらぬことをなされたものでござる……」
 すると、
「エヘヘヘ」
 笑い出した男をつと片手に制して、若侍は無言のままきびすを返して、森の奥へはいろうとする。
 その、回転の動作に、なんとなく栄三郎の記憶を呼びおこすものがあった。
「お!」栄三郎はあえいだ。
「や、弥生どの――ではござりませぬかッ!」
 が、弥生は返事はおろか、見かえりもしないで、豆太郎をうながし、森の中のむらさき色へ消えようとしている。
「弥生どのッ! オオそうだッ、弥生どのだッ!」
 という栄三郎の声に、弥生が逃げるように足を早めると、ならんで歩いている豆太郎が、横から顔を振りあおいだ。
「弥生の伊織さんか……ヘッヘッヘ、本名弥生さんてンですね、あんたは」
 刹那、ま
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