かにふるえているのだが、どちらかの刀が少しく出て、チャリーと[#「チャリーと」は底本では「チャリー と」]小さな、けれども鋭いはがねの音を発するが早いか、双方ともに何ものかに驚いたかのごとく、パッと左右に飛びはなれて静止する。
 それからジリジリと小きざみに両士相寄ってゆくのだが、再び鋩子先《ぼうしさき》がふれたかと思うと、またもや同時に飛びすさって身を構える……同じことを繰り返して、春日遅々、外見はまことに長閑《のどか》なようだが命のやりとりをしている左膳、栄三郎の身になれば、のどかどころか、全身これ神経と化し去っているのだ。
 そのうちに!
 独眼にすごみを加えていらだって来た丹下左膳、無法の法こそ彼の身上《しんじょう》だ、突如! 左腕の乾雲をスウッ――ピタリ、おのが左側にひきおろして茫《ぼう》ッと立った。泰軒先生得意の自源流水月の構えに似ている……と見えたのはつかのま!
「うぬ! てめえなんかに暇をつぶしちゃいられねえや。もう飴《あめ》を食わせずに斬ッ伏せるから覚悟しやがれッ!」
 声とともに殺気みなぎった左膳、身を斜めにおどらせて右から左へ逆に横一文字、乾雲あわや栄三郎の血を喫したか? と思う瞬間、白蛇|長閃《ちょうせん》してよく乾雲をたたきかえした新刀の剛武蔵太郎安国、流された左膳が、ツツツツ――ウッ! 思わずたたら足、土煙をあげて前のめりに泳いで来るところを!
 すかさず栄三郎。
 払った刀を持ちなおすまもあらばこそ、数歩急進すると同時に、捨て身の拝《おが》み撃《う》ち、すぐに一刀をひっかついで、
「…………」
 無言、一気にわってさげようとした――が!
 余人なら知らぬこと、月輪にあっても荒殺剣《こうさつけん》の第一人者として先代月輪軍之助に邪道視され、それがかえって国主大膳亮のめがねにかない、一徒士の身をもって直接秘命を帯び、こうして江戸に出て来たのち、幾多の修羅場をはじめ逆袈裟《ぎゃくけさ》がけの辻斬りによって、からだがなまぐさくなるほど人血を浴びて来た左膳のことだ。いかに栄三郎、神変夢想の万化剣をもつといえども、いまだ白昼の一騎勝負に左膳をたおすことはできなかった。
 と見えて。
 サッ! と電落した武蔵太郎の刃先にかかり、折りからの風に乗ってへんぽんと左膳の足をはなれたのは、着物とそうして、女物の肌着の裾だけ……。
「むちゃをやるぜオイ!」
 
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