をさして、いま出かけていったところだと。
右の趣、取り急ぎ御両人様へお知らせ申し上げ候かしく……とのみで、名前は書いてないが、それが、その後行方の知れない弥生さまの筆であることは、栄三郎にはひと眼でわかった。
この手紙は。
このごろ毎日のように豆太郎をつれて、本所の化物屋敷を見張っている小野塚伊織の弥生、きょうもさっき、源十郎方の荒れ庭にひそんで、なんということなしにようすをうかがっていたところへ、母屋と離れから同時に出て来てちょうど弥生と豆太郎の隠れている鼻先で落ちあった源十郎と左膳が、互いに掛引きののち、ついにめいめいの女の居場所をあかしあうのを聞いたので、急ぎ両人が出て行くのを待ち、弥生はさっそく筆を取ってこの一状を認め、それを豆太郎に持たせて、すぐさま瓦町へ走らせて投げこませるとともに、自らはただちに青山の家をさして引っ返したのだった。
そして瓦町では。
鈴川源十郎が、いまやお艶を襲い、丹下左膳は弥生のもとへ出向きつつある……と知って、ひさしく謎となっていた弥生の居場所もわかったので、無言のうちにうなずきあいつつ[#「うなずきあいつつ」は底本では「うなづきあいつつ」]、スックと立ちあがった泰軒栄三郎、いわず語らずのうちに手順と受持ちはきまった。
栄三郎にしてみれば、この際正直に気になるのは、いうまでもなくお艶のほうであったが、そこはことのいきがかり上、泰軒にまかせ、泰軒はまた眼顔でそれを引きうけて、彼はただちに深川の松川へ駈けつけてお艶を救うことになり、義によって栄三郎は、時を移さず青山長者ヶ丸へでばって途中に左膳を待ち伏せ、乾坤一擲《けんこんいってき》の勝負をすることとなったのだった。
こうしていち早く瓦町の露地を走り出た両人。
――だから源十郎がまつ川へ乗りこむさきにすでに泰軒の先《さき》ぶれによって、お艶は気のつかない夜具部屋へかくされ、その代りお艶の部屋に、泰軒居士がドッカとあぐらをかいて、のんきそうに茶碗酒をあおっていたわけ。
たしかにここにお艶が?――と気負いこんで力まかせに障子を引きあけた源十郎、そこに、思いきや一番の苦手《にがて》、蒲生泰軒がとぐろを巻いているこのありさまに、ハッとすると同時、居合の名人だけに自分の気のつく先に、もうとっさに刀を抜いていた。
が!
源十郎心中に思えらく……。
さては、はかられたな!
か
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