ら、じっと独眼をこらして栄三郎の顔に注いだが、あたまは、鈴川源十郎に対する火のような憤怒《ふんぬ》にもえたっていた。
 さては、謀《はか》られたな!
 と左膳、歯ぎしりをかんで思うのだった。
 かの源十郎、いつのまにやら栄三郎に与《くみ》して、自分をここまでおびき出したに相違ない。
 とすれば!
 栄三郎のほかに多数の伏勢が待ち構えているはずだと、左膳は一眼を光らせて、再び樹間、起伏する草の上を眺めまわしたが、やはり凝《こ》りかたまったような真昼の森のしじまには、笄橋《こうがいばし》の下を行く水の流れが音するばかり……何度見ても人の気配はない。
 血戦ここに、思うさま開かれようとしている。
 対立する諏訪栄三郎と丹下左膳。
 いいかえれば水火の秘文《ひもん》を宿す乾雲坤竜の双剣。
 一は神変夢想流。
 他は北州の豪派月輪一刀流より出でて、左腕よく万化の働きを示し、自ら別称を誇号《こごう》する丹下流。
 しずかな開始だった。
 スウ――ッ! と左膳が、単腕に乾雲丸を引き抜いて、正規の青眼につけると、栄三郎の手にも愛刀武蔵太郎安国が寂《じゃく》と光って、同じくこれも神変夢想、四通八達に機発する平青眼……。
 あいしたう二刀が近々と寄って、いずれがいずれをひきつけるか――これが最後の決戦と見えたが!
 ふしぎ!
 どうしてこの左膳の道に、諏訪栄三郎が刀意を擁《よう》して待ちかまえていたのか……といえば?
 先刻……。
 浅草瓦町の露地の奥、諏訪栄三郎の家に、ちょうど栄三郎と食客の泰軒とがいあわせているところへ表の戸口にあたってチラと猿のような、子供のような人影が動いたと思うと、音もなく一通の書状が投げこまれていったのだった。
 なんだろう?――と栄三郎が拾って来て二人で開いて見ると、栄三郎には覚えのある弥生どのの筆跡。
 よほど急いで認めたものらしく一枚の懐紙《かいし》に矢立ての墨跡がかすれ走って、字もやさしい候《そうろう》かしくの文……。
 というと、いかにも色めいてひびくが、顔を寄せて読んでいるうちに、泰軒と栄三郎、思わずこれはッ! と声を立てて互いに眼を見合ったのだった。
 候かしくの女手紙はいいが、内容は艶っぽいどころか、いかにも闘志満々たるもので、鈴川源十郎がお艶の居所を知って、やぐら下のまつ川へ向かい、同時に左膳は弥生の隠れ家を探り出し、青山長者ヶ丸の子恋の森
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