が弥生のいるという子恋の森であろう……と水を飲みおわった左膳、腰の乾雲丸を左手に揺りあげて、再び土手に帰って歩を早める。
このへん一体、鬱蒼《うっそう》たる樹立のつづき。
笄橋《こうがいばし》。
ここ青山長者ヶ丸の谷あいの小溝にかかっている橋で、国府の谷橋の転じたものであろうといわれているが――左膳がこの笄橋にさしかかった時だった。
フッと行く手に人影がさしたかと思うと白く乾いた土が埃をあげている小径のさきに、片側から、まず太刀の柄がしらが影をおとしてハッと左膳が立ちすくむまに続いて浪人|髷上半《まげじょうはん》、それから徐々にさむらい姿が、黒く路上に浮き出されて、同時に静かな声とともに行く手に立ちふさがったのを見れば……!
坤竜丸――諏訪栄三郎!
「待っておったぞ。左膳!」
「ヤッ! 坤竜か、うむ、栄三郎だな――ひとりかッ」
いいながら左膳、グイと片手に乾雲の柄をつき出して目釘をなめつつ、あわただしくあたりを見まわした。
シーンとして深山のよう。
ホウホケキョー、どこか近くの木で鶯《うぐいす》が鳴いている。
栄三郎はほほえんで、
「もとより拙者ひとり。貴公の来らるるを知って栄三郎、坤竜とともにここにお待ちうけ申しておったのだ。幸いあたりに人はなし、果たし合いにはもってこいの森でござる。今までたびたび刃を合わせても、じゃまや助太刀が入って、貴公と、拙者、心ゆくまで斬りむすんだおぼえはござらぬ。またとない機会、いざ御用意を!」
残忍な笑みが左膳の頬に浮かぶと彼はガラリと調子が変わった。左膳が、この江戸の遊び人ふうの言葉になる時、それは彼が満身の剣気に呼びさまされて、血の香に餓え、もっとも危険な人間となりつつあることを示すのだ。
声が、薄い口びるの角から押し出された。
「俺のいいてえことをいっていやアがらあ。ハハハハ、何やかやと今まで延び延びになっておったが俺と手前は、夜泣きの刀を一つにするために、どっちか一人は死ななきゃアならねえんだ。なら栄三郎、去年の秋、俺が根岸|曙《あけぼの》の里の道場を破ったとき、俺とてめえは当然立ち会うべくして立ち会わなかった。今日は竹刀の代りに真剣だが、あの日の仕合いのつづきと思って、存分に打ちこんで参れッ!」
いよいよ栄三郎ひとりと見きわめた左膳は、真剣よりも、本当に仕合いにのぞんでいる気で、こうネチネチといいなが
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