によって姐御一流の鉄火《てっか》な調子……。
「そりゃアあたしもネ、なんて頼み甲斐のないお人だろうと、いまから思えば冷汗《ひやあせ》ものですけど、一時は殿様をお恨み申したこともありますのさ。でもね、すぎたことはすぎたこと。さらりと水に流してしまえば、そこは江戸ッ子同士のわかりも早く、ホホホ、こうしてあつかましく遊びにまいりましたよ」
「よく来た」
ぽつりいって、源十は冷酒《ひや》[#「冷酒《ひや》」は底本では「冷|酒《ひや》」]を満たしてやる。
だるい静けさ。
さっき源十郎がひとりで、先日手切れの五十両を持って出ていったきり今に帰らないおさよのことを、さまざまに思いめぐらして憤怒《いかり》をおさえているところへ、チョロチョロと裏庭づたい、案内も乞わずに水ぐちからあがりこんで来たのが、この絶えてひさしい櫛まきお藤であったから、うらまれる覚えのある源十郎、すくなからず不気味に思いながらも、あんまり嫌な顔もできず、あり合わせの酒をすすめながら相手になっていると。
お藤はすぐ、おのが恋仇敵ともいうべき左膳の思い女《もの》弥生のことを、われから話題《はなし》に持ち出したのだった。
弥生のその後――それをお藤は源十郎に語る。
そして……。
お藤は、こういうのだった。
弥生がいま、男装して小野塚伊織と名乗り、青山長者ヶ丸なる子恋の森の片ほとり、火事装束五人組の隠れ家にひそんでいることを、たしかにさる筋よりつきとめた――と。
お藤がここにいうさる確かな筋とは?
それは、ほかでもない。
彼女じしんのうちにいつしか発達した探索の技能によって、最近じぶんで嗅《か》ぎ出しただけのことである。みずからつけまわして探り当てたのだから、なるほどこれ以上確かな筋もあるまいが……。
いったいこのお藤。
ながらく岡《おか》っ引《ぴき》その他の御用の者をむこうにまわして昼夜逃げ隠れているうちに、対抗の必要上、いつのまにか駈け出しの岡《おか》っ引《ぴき》なんか足もとへも寄れないほどに眼がきき出して、ことに人の行方なぞたいがいの場合、お藤姐御の智恵さえ借りれば、即座にかたのつくことが多かった。
こんどもその伝《でん》。
かの第六天篠塚稲荷の地洞《じどう》に左膳とともに一夜を明かしたのち左膳はそのまま、お藤の盗って来た坤竜を引っつかんで、まんじ巴《ともえ》の降雪《ゆき》のなかを飛
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