ころもがえ。
卯《う》の花くたしの雨。
きょうも朝から、簀《す》のような銀糸がいちめんに煙って、籬《かき》の茨《いばら》の花も、ふっくらと匂いかけている。
屋敷横、法恩寺の川はいっぱいの増水で水泡をうかべた濁流が岸のよもぎを洗って、とうとうと流れ紅緒《べにお》の下駄が片っぽ、浮きつ沈みつしてゆくのが見える。
土手につづく榎《えのき》の樹。
早い青葉若葉が濡れさがってところどころ陽に七色に光っていた。
あかるい真昼の小雨だ。
はるか裏にひろがるたんぼのなかを、大きな蓑《みの》を着た百姓が、何かの苗を山とつんだ田舟を曳いてゆくのが、うごきが遅いので、どうかするととまっているようで、ちょうど案山子《かかし》のように眺められるのだった。
潮干狩のうわさも過ぎて、やがては初夏のにおいも近い。
遠くの野に帯のような黄色な一すじが、雨に洗われて鮮やかに見えるのは、菜の花であろう……。
雨日小景《うじつしょうけい》。
左膳は、その一眼にこれらの風情をぼんやりと映して、さっきから本所化物やしき庭内、離室の縁ばしらに背をもたせたまま、まるで作りつけたように動かずにいるのだ。
人なみはずれて身長の高い左膳は、こうして縁側に立てば、破れ塀のあたまごしに、そと一円を見はるかすことができたけれど、それにしても剣怪左膳、どうしてこうおとなしく、絹雨にけぶるけしきなどを、いつまでも見惚《みと》れているのであろう。
彼らしくもない。
……といえばいえるものの、じつは左膳、これでも胸中には、例によって烈々たる闘志を燃やし、今やこころしずかに、捲土重来《けんどじゅうらい》、いかにもして栄三郎の坤竜を奪取すべき方策を思いめぐらしているところなのだ。
ながい痩身、独眼刀痕の顔。
空《から》の右袖をブラブラさせて、左しかない片手に柱をなで立つと、雨に濡れた風がサッと吹きこんできて、裾の女ものの下着をなぶる。
鋭い隻眼が雨中の戸外に走っているうちに、しだいに左膳の頬は皮肉自嘲の笑みにくずれて来て、突然かれは、いななく悍馬《かんば》のごとくふり仰いで哄笑した。
「あっはははッは! 土生《はぶ》仙之助は殺《や》られたし、月輪も、先夜は岡崎藤堂ら数士を失い、残るところは軍之助殿、各務氏、山東、轟の四人のみか――ナアニ、武者人形の虫ぼしじゃアあるめえし、頭かずの多いばかりが能《のう》
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